金色の海がある
TOPルネサンスの風


オレが金髪にしたとき。
あいつは、言ったんだ。

・・・染めたのか

そうだよ。見れば分かるだろう?

・・・そうか 茶色でもよかんたんだろ

金が、よかったから。

・・・だったら、メットかぶるなよ、もう

かぶんないけど、なんでだよ。

・・・ネオンには金が、似合うだろ 闇に映える

お前は、染めないんだな。

・・・お前が染めたから、いいさ いくぞ



バイクをふかした。オレも。
ネオンが次々と後ろに消えていく。
見えるのは、あいつの背中。
潮風が冷たい。
闇の中に海があるから。
エンジン音にかき消されながら聞こえる、波の音。
確かに、海はある。

オレはあいつの背中だけを見ていた。
海はどこにも行かない。そこにあるんだ。

いつも、潮風を感じるんだ。

そして、あいつはいつも側にいる。
だけど、あいつはいつもどこかへ。

消えてしまいそうで。

オレは追い続けた。
いつもあいつの背中を。

おれの居場所はそこだった。
あいつのいく、場所。

あいつがいつもオレの側にいるわけじゃなくて。
オレがあいつの傍にいつもいるようにしていた。

あいつは海を見に行くから、
オレは海を見つめるあいつを見ていた。

オレはそんなあいつの背中を、
ずっと見ていたんだ。



・・・海はここにしか、ないから。ここ以外の海を知らないから。

だからお前はここに来るのか。

・・・お前だったら、どこがいい。

どこでもいいさ。海はおんなじ、だろう?

・・・そうだな。お前らしいか。



でもそれは、嘘だったんだ。

あいつが海に行くから、オレは海に行くんだ。
あいつの居る海だから、おんなじ海が見られるんだ。



・・・夕方に来たほうが、いいかもな。

なんでだよ。おんなじじゃないか。



お前がいるなら、という意味だった。



・・・夕方の海は、入り日の海は……特別さ。ちょっと違うんだ。

よくわかんねーこと言うなよ。らしくないぜ。

・・・あの金色の海を見ていると、明日もいい日だって、思うだろ。
   闇の中に、金色なんてどこにもない。ネオンよりも輝くのが、金色さ。

なくても、いいだろ、別に。

・・・お前の髪も……金色だ。



あいつは、否定も肯定もしなかった。
オレはあいつがこだわった理由は知らない。

だけど。
あいつがいなくなったあとも、
海のあるあの街を離れてからも、
オレは夕日を見に行く。

もう、金髪はやめたけれど。

あの入り日の中で、
オレの髪が金色に染まって輝くから。

オレの居場所は変わってしまったけど。
あいつの海を見つめている。

どこにも行かない海。
いつも感じる潮風。

だけどあいつの背中はもうない。
オレの見つめた背中はここにはない。

それでもオレは、
海だけをずっと。

ずっと見つめている。

輝く金色を見つめている。




稲葉 葵ハ見ツメテイタ
”アイツ”ガ見テイタ
金色ノ海ヲ
一人デ ズット
見ツメテイル
コレカラモ ズット
アノ夕日ヲ 入リ日ヲ
見ツメ続ケル……